海抜ゼロから富士山 2021年7月 ②

2日目ー打って変わって小雨ー大雨ー雷雨ー霧雨。

6時に出発。村山浅間神社にお参りし、無事を祈願する。

今日も蒸し暑い。長袖にしたのは失敗だったかも。
村山古道という昔からある道で登る。苔が多くとても綺麗。
村山古道は富士山最古の登山道で、あまり使われていないらしく、標識もあまりなく道に迷いそうになる。
倒木も多く、乗り越えたり、頭をかがめたり。
一本目の倒木を頭をかがめてやり過ごしたらその次にまだ二本倒木が待ち構えていて頭をぶつけることも。
道は一本道ではなく、車の道路を横切ると古道が途切れる。次の開始場所がずれていてわかりにくい。

そうこうしているうちに本当に道に迷い、獣道もないシダ植物が繁る道になった。
ジュラシックパークの世界。
シダはいいが、漆っぽい草を見つけてはこれが本当に漆だったらかぶれるけど、と不安になる。
棘のある植物もあり、ひっかかると当然痛い。
あともう少しで道路に出る、というところではショートカットのため、身長よりも高くはびこる草の中をリーダーが行く。
え???この道?!、と思いつつ棘にひっかからないよう、かき分けかき分け、ようやくサポートカーとの最初の待ち合わせ場所に着いた。

朝一の工程で1時間予定のところ3時間かかり、10時すぎである。
途中雨が降ってきて全員雨具を着用している。
かなりの雨になってきて荷物をおこうと思っても、荷物も置くところもなく、休憩地点の屋根がある所で荷物を思う存分広げられるのは助かった。
昔の人も屋根があって、雨風を防げるだけでも大分助かったことだろう。

雷が近づいていると、10時半だが長めのランチ休憩をとることになった。
雨はますますひどく、軒下に叩きつけるように降り、座っているベンチの下にもどんどん染み込んでくる。
この 雷雨をここでやり過ごしても、また夕方に 雷雨が来ると言う。
この時点で午後早めに到着予定から19時到着予定となった。

昨日の炭水化物不足か、はたまた腰痛のせいか、午後早め到着なら頑張れるが、19時到着だと絶対にどこかで駄目になりそう。
5合目、6合目で動けなくなるより、サポートカーがいる今休んだ方が 良いと、次の休憩地点まではサポートカーに乗せてもらうことにした。

雨の中、続けて歩く5人を見送りサポートカーに乗ると、車って何て快適なんだろう、あんなに苦労して歩いてきた道をあっという間にたどり着く、ありがたいと思った。
サポートカーに乗ったら一番にしたかったことをする。
すなわち重い登山靴を脱ぐ。
1時間後にまた歩けるように何が必要か。考えるまでもなく眠くなってきた。
一昨日からの睡眠不足がたたっているらしい。
一時間ほどサポートカーで眠り、体を休めたおかげで次の合流地点からまた歩く気力と体力が沸いた。

雨は止まない。
ザックの扱いが慣れていないので、お腹が空いたと思った時にすぐ出せるところに食べ物がない。あの食べ物はどこにあったかなとごそごそ探すが、ザックの定位置が決まっていないために、見つからなかったりする。
休憩地点に着くともう食べる気がなくなる。
お腹が空いたらザックを下ろさなくてもすぐ食べられるところにおいておかないといけない。また、飴など甘いものだけだとしょっぱいものが欲しくなる。
小魚ナッツを持参したが、おいしいけど食べにくく、行動食には向かないことがわかった。
もらった魚肉ソーセージは塩味が効いて美味しかった。
黒糖マーガリン6個入りもすぐエネルギーになり、食べやすく、皆にも分けてあげられ、良いとわかった。

ペットボトルはザックの横ポケットに入れていると、自分で取り出せないので後ろの人に休憩の度にとってもらい、直してもらいと効率が悪い。
かといって腰にぶら下げると歩きにくい。
体験して初めてわかることがいろいろ。
次回はここを、あそこを改善しようと思いつつ登る。

雨はずっと降り続き、止む気配はない。
小雨になることもあるが、また大雨となり、かなりの量が降り続いている。
夕方になると雷もまた鳴り始めた。
リーダーはこの大木の多い場所なら、この遠さなら問題ないと(多分)判断し歩き続けているのだろう。
このリーダーの判断なら大丈夫と、信じて皆も歩き続ける。

富士山登山が他の山と明らかに違うのは、下りがないことだろう。他の山はせっかく登ったのに、下った後また登りがあったりして、がっくりくる。が、それがないのは助かる。

雨が止んでくれるだけで、小降りになってくれるだけでどんなに気分が違うかと思う。
雨が降っているだけでどんどん気持ちが暗くなってくる。
外も暗くなってくるのに、予定到着時刻は20時になった。
ヘッドライトをつけながら雨の中を歩くのか。
靴の中は皆ビショ濡れ。
晴れていれば、せめて曇りであれば、こんなに気は滅入らないと思うのだけれども。

7合目までの最後の3時間はつらかった。
翌日のご来光も天気が悪く望めそうもなく、濡れた靴では0度前後の寒さに耐えられそうもなく、7合目で折り返すと早くも決めた。
明日の10時にはもうバスに乗っている、楽になると思い7合目到着を目的にし、歩き続ける。

私以上に疲弊して足が踏ん張れず、グラグラ石に足をかけては石を落としている人もいたが、ポールの力で何とか登って行けているようだ。
漸く6合目に到着。19時。
山小屋で少し休憩させてもらい、最後、あと1時間!

皆でザックを背負い、歩き始めると
「御来光山荘の灯りが見える」とリーダー。7合目の宿泊地である。
「翼よ!あれが巴里の灯だ」ではないけど、雨の中、暖かく迎え入れてくれそうな暖色の灯り。あそこまで登れば終わり、と気力が湧いてくる。

ヘッドライトをつけて暗く雨の中、日没過ぎても結構明るいんだなとぼんやり思う。
女性陣は足がガクガクになりながら登る。男性はまだまだ余力がありそうである。

「街の灯りが見えますね」リーダーの声に振り返ると、御殿場や富士宮市(多分)の街の灯が下に見えて綺麗だった。
明らかにペースが落ち、足元がおぼつかない一人にリーダーが「今一番辛いことは何ですか?」と尋ね、女性は「寒さ」と答える。
低体温症か、目がうつろで大丈夫かと思ったけど、リーダーが荷物を引き受けてくれ、なんとか6人で20時に山小屋に到着した。
標高2780m到達!

とにかく早く濡れたものを降ろし、乾いたものに着替えたい。
しかし防水カバーで包んでいたはずのザックの中の物が濡れている。
雨具を着ていたはずなのに洋服も所々濡れている。
乾いたものが全くないと、濡れたものをまた着てガタガタ震えている女性もいた。

山小屋にストーブがあるのかと思ったら、そんなものはなく、寒い。
濡れた物も乾かせず、明日またこのずぶ濡れの靴を履くのかと思うと憂鬱になる。

山小屋の人は20時まで待っていてくれた上、すぐ夕食にしてくれた。
カレーとスープとプチデザート。
スープは心にしみる暖かさと美味しさだった。
内側から温まり、ほっとして、また皆笑顔が出てきた。

山小屋の人も会話に加わり、今日の履歴を共有する。
村山古道から登る人は少ないらしい。
昨年はコロナで閉山したが、今年も人が少ない。多くなってくれると良いのだが。

翌日の起きる時間を決める。
予定では0時起床1時出発、10時の5合目発バスに間に合う予定だったが、私以上によろよろだった女性が登りたいと言ったのに驚いた。
「時間はかかるかもしれないが、登りたい」と。

リーダーはその時、バスの時間は気にせず何時間かかってもいいから登る!、という目標に切り替えた。
山頂でご来光を見るのを諦め、眠る時間を確保するために2時に出発することになった。
4時半の日の出は途中で見る。何時間かかっても良いから、10時のバスではなく午後のバスに乗る。

私は晴れなら登りたかったが、ご来光も難しく、明日も雨で0度前後の山頂の寒さは濡れた靴では耐えがたいと思われた。雨なら登らなくても良いと、リタイアすると伝えた。
ゴール設定は人それぞれだと今更ながら思う。
せめて皆の下山を待って一緒におりたかったが、仕事もあるので10時のバスに乗るため、先に下山することにした。

しかし横になっても、疲れているはずなのに、山小屋が寒くて眠れない。
3枚しかないという毛布を女性1枚ずつもらって巻いているのに、リーダーにダウンを借りたのに、何度も寒くて目が覚める。
日の出直前の4時20分頃また目が覚めた。
日の出を見に起きようかと思ったけど、曇りで見れないかと、そのまままた寝た。

3日目ーカフェオレと湧玉池再び

昨日車の中で寝たせいもあり、元気いっぱいで目が覚める。
山頂の5人は無事に到達できただろうか。
7時に掃除が入るということだったので、片付けを終えて共有スペースに行くと、まだ寝てても大丈夫と山小屋の人から優しい言葉。
が、もう片付けたしと、カフェオレを頼む。500円だけど出てきたのはインスタント。
でも富士山標高2780mでは水が貴重だから適正価格だろう。
程よい甘みと暖かさにほっとする。

カフェオレを飲みつつ、帰りのルートをチェックしていると、雷のような音が聞こえる。
こんな高いものがないところに雷なら、歩いていると標的になる。
山小屋の人に「雷ですか?」と聞くと「自衛隊の大砲の音だから大丈夫」と言う。
下から登ってきた登山客も何人か山小屋を開けて、「雷ですか?」と同じように聞いていた。皆レインウエアを着ているが、昨日のような大雨ではなく小雨だったのが救いだ。

まっすぐ5合目まで降りると1時間強。時間はたっぷりある。
「宝永噴火口の跡を見れる」と教えてもらい、そちらを回って5合目のバス停に行くことにした。
頼れる人はいないので、迷うことも考えて8時前に出発。
登りに1時間かかった6合目には40分ほどで着く。
そこから宝永火口の方に歩く人はなく、標識はちゃんとこちらを指し示しているけど、本当にこっちの道でいいのかと、ちょうど山小屋から出てきた人に聞いてみる。
正しいと言ってもらって進むが、誰ともすれ違わない。
晴れていればたくさん人が訪れるルートと本には書いてあったが。
もし間違っていたら引き返す時間も考えておかなくては。

途中ようやく登ってきた人とすれ違う。
この道で正しいというが、「熊が出るかもしれませんよ」
「えぇ~~~」とびっくりすると、「親子熊が出たのは5年ほど前だから心配することはない。ちょっと脅かしただけ」とのこと。

脅かさないで欲しいと思ったけど、聞いておいて良かった。
熊が出るなんて思いもしなかったから、熊注意の看板を見たら、パニクったかも。
熊よけの鈴は集団行動だからとわざわざ置いてきた。
しょうがなくポッドキャストを大音量でかけつつ林の中を歩く。
6合目より上は森林限界で低木しかないが、ここは気持ちの良い林。
しかし熊は見えにくい。
大音量でも富士山の中では頼りない小さな音にしか聞こえない。
下山は楽。ドキドキしながらも1時間ほどで5合目のバス停まで辿り着いた。
5合目にはこれから登る人も下山する人も結構いる。
梅雨明けたらもっと増えるのだろう。バスに乗車したのは1/4もいなかった。

帰りのバスで富士山本宮浅間神社の湧玉の池前を通る。
一昨日ここを通ったばかりなのに、大分前のことのように感じられる。
ここで話した会話が思い出される。
ここから登ったんだ、バスでも1時間かかるのによく歩いたなと、今更ながら胸に迫る。

新しい発見ーまず一歩踏み出せ

今回のことではいろいろのが新しい発見があった。
遥か遠くに見える富士山でも一歩踏み出せば到達できること
仲間と一緒ならやり遂げられること
最大公約数をとる目標設定
雷の中昼歩くより、夜歩くことを選ぶ場合がある
行動食に適した食べ物、食べやすいもの、甘いものだけではいけないこと
行動食はすぐ取り出せるところにおくべき
長距離歩くには炭水化物が大事
カバーがかかっていてもザックの中のものは濡れる
レインウエアを着ても服は濡れる
予測不能を楽しむこと

今回のことがなかったら富士山に登る機会は何年後かになっていたかもしれない。
リーダーが下調べをしておいてくれたおかげで素人5人も安心してついて行けた。
サポートカーも荷物を預かってもらったり、乗せてもらったり大活躍で有難かった。
つい1年前には知らなかった人の出会いに感謝。

ザックや道具も揃えたので、またいつでも登山ができる。
0合目から7合目まで登ったので、次回は5合目から山頂まで行こう。

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